男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版まとめ【7年ぶりの改訂版が公開された!】

ガイドライン

『男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版』が2017年12月に日本皮膚科学会から公開されました。

元々このガイドラインは数ある薄毛治療方法の中から科学的に根拠に基づいた情報を選び出し、国内における男性型脱毛症(AGA)診療の水準を向上させることを目的として2010年に発行されたものです。

それから7年が経過し、「デュタステリド」のような薄毛治療薬や、「成長因子導入」「低出力レーザー照射」などの新たな治療方法が登場したため、2017年12月に改訂版が公開されることになりました。

去年(2016年)から「来年にはガイドライン改訂版を出せる予定です」と関係者からお話を聞いていたので、新版ガイドラインがついに来たかという感じです。

なお、上述したように改訂版では新たな治療方法にも言及しているため、改訂前(2010年版)の約1.5倍のボリュームになっています。また、専門用語も多いため、一般の方が全てを読むのは時間も労力もかかる作業です。

そこで、こちらの記事では改訂版における各治療の推奨度のまとめ、新たに評価された治療内容、推奨度が変更になった治療法などを抜粋してご紹介します。

ガイドラインの変更内容を知りたい方や、これから薄毛治療に取り組まれる方には参考になる内容ですので、ぜひご覧になってみてください。

2017版ガイドラインの各治療方法の推奨度まとめ

2017年版ガイドラインでの各治療方法の推奨度は次の通りです。

■2017年版ガイドラインの推奨度まとめ
表

上記表は「男性型および女性型脱毛症心証ガイドライン2017年版」より引用

なお、上記表中の各推奨度は以下のようになります。

  • A:行うように強く勧める
  • B:行うように勧める
  • C1:行っても良い
  • C2:行わない方が良い
  • D:行なうべきではない
表をご覧になってわかるように、推奨度A(行なうように強く勧める)の評価を受けているのは、男性で「フィナステリド内服」「デュタステリド内服」「ミノキシジルの外用」、女性は「ミノキシジル外用」のみです。

そのため、推奨度Aに関しては2010年版から変更になったのは男性に「デュタステリド内服」が加わったことだけです。ちなみにデュタステリドは2016年に処方が開始された『ザガーロカプセル』に含まれている成分です。

プロペシア(フィナステリド)と比較して選択する患者様が少ないお薬ですが、今回のガイドラインで推奨度Aの評価を受けたことによって、注目度は高まると予想できます。

また、今回の改訂版から新たに加わった治療方法はデュタステリドだけではありません。他に低出力レーザー照射、ビマプロストの外用、ミノキシジル内服などが加わっていますので、それらを順にチェックしていきましょう。

ガイドラインに新たに加わった治療方法と推奨度

1.デュタステリドの内服(男性:推奨度A、女性:推奨度D)

私たちの血中の男性ホルモン「テストステロン」は体内に存在する、I型とⅡ型の5α還元型酵素により抜け毛の原因となる強力な男性ホルモン「ジヒドロテストステロン」に変換されます。

デュタステリドという薬はI型とⅡ型の5α還元型酵素のどちらも作用して、ジヒドロテストステロンの生成を抑える働きをします。

ちなみにAGA治療薬で有名なフィナステリド(商品名プロペシア)はⅡ型の5α還元型酵素にしか作用ないため、デュタステリドの方が期待できる効果は高いと言われています。

実際、日本を含めた国際臨床試験において毛髪数と毛直径の増加は、デュタステリドの方が優れた効果を示しました。

なお、デュタステリドはフィナステリドと同じく女性は使用することができない薬剤ですのでその点はご注意ください。

2.LEDおよび低出力レーザー照射(推奨度B)

頭皮に低出力レーザーを照射する薄毛治療法が改訂版では、推奨度Bという高い評価を受けています。

「そんな方法で本当に薄毛が改善するの?」と疑問に持たれる方も多いかもしれませんが、薄毛治療先進国のアメリカでは「低出力レーザー照射」での治療がFDA(アメリカ食品医薬品局※)の認可を得ています。

※ アメリカのFDAは日本の厚生労働省にあたる存在。ちなみにFDAが薄毛治療で認可しているものは、フィナステリド内服、ミノキシジル外用、自毛植毛、そして低出力レーザー照射の4つの治療法のみです。

ちなみに110名を対象とした臨床試験では、655nm(ナノメートル)の低出力レーザーを週3回、26週間(約半年)続けることで、19.8本/平方cm増加したという結果でした。

なお、「ヘアーマックス」のような専用機器を使えば、自宅にいながら低出力レーザー照射治療を受けることができます。

3.自毛植毛手術(男性:推奨度B、女性:推奨度C1)

自毛植毛手術については初版から男性には推奨度Bとして記載がありましたが、女性への適用は明言されていませんでした。

しかし、2017版からは女性にも推奨度C1(行なっても良い)という評価を受けました。

この背景としては、全世界で自毛植毛手術を受けてる女性が年々増えてきていることが挙げられます。実際、2015年に全世界で自毛植毛手術を受けた人の15%が女性ですからね。これは決して無視できる数値ではありません。

なお、自毛植毛手術の技術レベルも年々上がってきており、移植した髪の生着率は82.5%以上になると言われています。おそらく、今後も自毛植毛手術を受ける方は男女関わらず増えていくでしょう。

4.ビマプロストおよびラタノプロストの外用(推奨度C2)

ビマプロストやラタノプロストは睫毛(まつげ)発毛促進効果がある成分で、睫毛貧毛症治療薬(まつげ育毛剤ともいわれる)に含まれる成分です。

ビマプロスト(商品名クラッシュビスタ)は睫毛貧毛症治療は2014年に日本国内でも製造販売の承認を得ています。

そして、「まつ毛に効果があるなら毛髪に効果があるのでは?」という推測もできるのですが、未だ国内での臨床試験による検証が実証されていないので、今回は推奨度C2という評価になったようです。

なお、海外ではラタノプロストを男性に試した試験で、約50%の被験者が改善したというデータもあるため、将来的には有用性を認定される可能性はあります。

5.成長因子導入および細胞移植療法(推奨度C2)

ガイドライン2017年版では成長因子の導入や細胞移植法については、推奨度C2と評価されています。

ただ、C2だからと言って決してそれらの治療が効果が無いというわけではありません。ガイドラインとしては「それらは先進医療の段階のため安全性・有用性が決して十分に検証されていない」というスタンスを取っていました。さらに「今後が期待される治療法ではある」という記述もあります。

そのため、将来的には推奨度が上がる可能性は十分にある治療方法です。

6.ミノキシジル内服(推奨度D)

ミノキジル内服薬については推奨度Dという評価でした。たた、こちらに関してもD評価だからといって薄毛に効果が無いとは書かれていません。

ガイドライン内にも、内服ミノキシジルは「全身多毛症を起こす」という記述があります。そして、全身には当然頭髪も含まれるため、髪に対して効果がある薬であるということがわかります。

実際、多くのAGAクリニックではミノキシジル内服薬を薄毛・発毛治療に処方しており、多くの患者さんが効果を実感しています。

ただし、可能性としては低いですが、動悸・息切れ・むくみ・うっ血心不全などの副作用もありますので、その点は注意が必要です。

ガイドラインから削除された治療薬・治療法

続いて、2010年版には掲載されていたが、今回のガイドラインからは掲載が削除された治療法を紹介します。

セファランチン外用(推奨度C2→削除)

ガイドライン2010年版では有用性が実証されていないとして、推奨度C2(行わない方が良い)とされていたセファランチン外用ですが、今回からは掲載が削除されています。

そもそも、セファランチン外用の有用性を述べていた検証報告が1例のみで、フィナステリド内服とミノキシジル外用とセファランチン外用を併用した上で増毛効果があるという報告内容でしたので、本当にそれがセファランチンの効果だとは断定できませんからね。

ですので、今回の削除に関しては妥当かなと感じました。特にセファランチンが配合している育毛剤を選んで使う必要は無いでしょう。

推奨度が向上した治療薬・治療法

続いて、前回のガイドラインから推奨度がアップした治療法を紹介します。

アデノシン外用の推奨度がアップ(C1→B)

前回のガイドラインではアデノシン外用は推奨度C1(行っても良い)でしたが、2017年版では推奨度B(行うように勧める)と評価がアップしています。

この背景になったのは、結果の信頼性が高いと言われているランダム比較試験において、有用性が確認されたためです。しかも、1回ではなく複数回の試験においてです。

その結果を1件紹介しておくと、101名の男性を対象にした6ヶ月間の試験において、アデノシン配合ローションを使用した方たちの80.4%に、毛髪径・軟毛率・太毛率に改善が見られました。

さらに、別の試験では0.75%アデノシン配合ローションと、5%ミノキシジル外用薬(リアップX5プラスと同じ濃度)と同等の有用性が確認されています。

また、女性に対しても12ヶ月の使用で85%の方が成長期毛伸長率・太毛率が改善したという試験結果のあるのため、今回の推奨度アップも納得です。

【まとめ】診療ガイドラインを読んで感じたこと

ガイドラインを読まさせていただき、私が特に注目した変化が次の2点です。

  • LEDおよび低出力レーザー照射治療への評価付け(推奨度B)
  • アデノシンの推奨度アップ(C1→B)
まず、驚いたのが「低出力レーザー照射治療」が推奨度Bという評価を受けたことです。

たしかにAGAクリニックの中には、低出力レーザー照射治療を提供しているところもあります。しかし、それらのクリニックの多くはレーザー治療を受けられるということを、これまで特に公表していませんでした。

というのは、レーザー照射と聞くと「怪しい」「詐欺みたい」という風な悪い印象を受ける方がたくさんいるためでしょう。私も初めてレーザー治療器を見た時には、こんなものが本当に薄毛治療に効果があるのか?と疑いましたからね。

しかし、今回のガイドラインでB評価を受けたことにより、AGAクリニックの中でもレーザー照射治療をアピールするところは増えてくると思います。また、医療機関以外のヘアサロンなどでも導入が進むように感じています。

ただし、低出力レーザー照射治療が効果があったというのは試験において、被験者は週3回照射をしています。それより少ない回数では効果はあるかもしれませんが、試験レベルの効果を期待するなら低出力レーザー照射機器を購入して、自宅で治療をするのが現実的でしょう。

続いて、大きな変化だと感じたのはアデノシン外用が推奨度B(行うように勧める)と評価されたことです。

外用薬はミノキシジル(リアップの有効成分)が推奨度Aの評価を受けていますが、肌に合わなくて使えないという方も少なからずいるはずです。

その場合の選択肢として、副作用が軽微なアデノシン外用を選べるようになったのは、ミノキシジル外用を使えなかった方達には嬉しいことだと思います。

なお、アデノシンがは移動している育毛剤としては、資生堂から男性向けに「アデノゲン」、女性向けに「アデノバイタル」が販売されています。

以上、男性型および女性型脱毛症ガイドライン2017年版を内容を抜粋してご紹介しました。お伝えした内容が少しでもあなたの参考になれば嬉しいです。